令和8年度 雇用関係助成金の最新動向と注意点
- 賢二 内藤
- 5月23日
- 読了時間: 9分
1.はじめに
令和8年度は、雇用保険法施行規則等の改正に伴い、複数の雇用関係助成金が見直し・新設されました。
中小企業や人事労務担当者にとって、これらの変更点を把握しておくことは、制度を適切に活用するうえで欠かせません。
本記事では、令和8年度の助成金の全体像と主要な変更点、および申請にあたって注意すべき点をまとめて解説します。
なお、助成金の内容は年度途中に変更される場合もあるため、申請前には必ず最新の支給要領やパンフレット等で確認してください。
2.令和8年度改正の全体像
令和8年度の主な改正は、雇用保険法施行規則等の改正を根拠としており、複数の助成金が対象となっています。
改正の主な対象となった助成金は以下のとおりです。
産業雇用安定助成金
早期再就職支援等助成金
65歳超雇用推進助成金
特定求職者雇用開発助成金
地域雇用開発助成金
両立支援等助成金
人材確保等支援助成金
キャリアアップ助成金
人材開発支援助成金
施行時期については、令和8年4月1日または4月8日が中心となっており、一部の改正については令和8年5月1日以降の適用となるものもあります。
3.主要な助成金の改正ポイント
① 産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
在籍型出向を活用して労働者のスキルアップを図り、出向復帰後に賃金を上昇させた事業主に対して支給される助成金です。
令和8年度の改正では、支給対象事業主の範囲が拡大されました。これまでは出向元事業主のみが対象でしたが、新たに出向先事業主も支給対象に追加されました。
また、支給要件となる6か月間の賃金上昇確認期間について、労働者の病気による休職などを「特別事情」として、賃金上昇確認の例外規定が設けられました。助成率・上限額は従来の枠組みを維持しています(中小企業2/3、中小企業以外1/2、1人1日あたり上限額8,870円)。
② 早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)
中途採用者の雇用を拡大する事業主に対して支給される助成金です。
令和8年度は要件と助成額の両面で見直しが行われています。
採用人数・中途採用率の要件が緩和されました。
新たに賃上げ(5%以上上昇)が必須要件となりました。
助成額が、これまでの事業所定額から**「1人当たり」**に変更され、上限は20人となります(1人あたり20万円)。
生産性要件を満たす場合や、会社全体の賃金の底上げを行った場合には、さらに1人あたり10万円が加算されます。
③ 65歳超雇用推進助成金
高齢者の雇用を推進するための助成金群です。令和8年度には以下の改正が行われています。
(1)65歳超継続雇用促進コース(見直し)
「1事業主1回限り」の取扱いが廃止され、段階的に措置を行う場合でも助成を受けられるようになりました。
助成額が見直され、希望者全員対象の措置について増額されました。選別継続雇用も助成対象に含まれることになります。
他社による継続雇用制度については、定率から定額への変更が行われました。
(2)高年齢者無期雇用転換コース(見直し)
助成額が1人あたり30万円から40万円(中小企業以外は23万円から30万円)に増額されました。
一方で、対象労働者の有期雇用期間の要件が通算6か月以上から通算1年以上に厳格化されました。
申請方法として、持参・郵送に加えて電子申請が可能になりました。
就業規則の届出確認が全事業場分(10人未満事業場も含む)について明記されることとなりました。
④ 特定求職者雇用開発助成金(高年齢者要件の見直し)
高年齢者(60歳以上)、障害者、母子家庭の母などの就職困難者を雇用した事業主に支給される助成金です。
令和8年5月1日以降の紹介から、高年齢者(60歳以上)の要件が変更されます。
従来は雇入れ時の年齢が60歳以上であることのみが要件でしたが、令和8年5月1日以降は、それに加えて**「紹介日において、ハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けていること」**が要件に追加されます。
これは、就労支援の実効性を高める趣旨によるものです。
⑤ 地域雇用開発助成金(雇入れ要件の見直し)
雇用情勢が特に厳しい地域等において、事業所の設置・整備に伴い地域求職者等を雇い入れた事業主に支給される助成金です。
令和8年度の改正では、雇入れ要件について**「正規雇用が1名以上含まれれば他の雇入れも対象」**に拡大されました。
また、プロジェクト参加企業での採用設計がしやすくなる内容の見直しが行われています。
⑥ 両立支援等助成金
(1)出生時両立支援コース(見直し)
対象事業主の範囲が拡大され、中小企業主のみであったものが常時雇用労働者300名以下の事業主まで対象となりました。
男性育休取得率の算定・要件確認が重要となります。
いきなり第2種は変わらず使えますが、いきなり第2種については300人以下の事業主が対象に変更となります。
「情報公表加算」などの加算体系も確認が必要です。
(2)介護離職防止支援コース(見直し)
介護両立支援制度のうち「所定外労働の制限制度」および「深夜業の制限制度」は、育児・介護休業法においてすでに全事業主に義務付けられていることから、制度メニューから削除されました。
有給の介護休暇制度の有給化については、独立した類型として新設され、中小企業事業主に対して1回に限り30万円(一事業年度において介護休暇を年10日以上付与する制度として導入した場合は50万円)が支給されます。なお、支給には10時間以上の取得実績が必要です。
(3)育休中等業務代替支援コース(見直し)
「育児休業中の手当支給」および「育児短時間勤務中の手当支給」の支給対象となる事業主の労働者数要件(常時雇用する労働者の数が300人以下)が撤廃されました。
「育児休業中の代替要員の新規雇用(派遣の受入れを含む)」については、中小企業事業主の要件が緩和され、業種にかかわらず常時雇用する労働者が300人以下の事業主が対象となりました。
対象労働者の育児休業期間中に他の労働者が業務を代替した場合に支給する業務代替手当について、助成金の算定対象となる手当支給期間の上限が2年間に延長されました。
新規雇用(派遣の受入れを含む)において、代替した期間に「1年以上」の区分が新たに設けられ、81万円(プラチナくるみん認定事業主は99万円)が支給されます。
⑦ 人材開発支援助成金
(1)人材育成支援コース・人への投資促進コース
中高年齢者実習型訓練が新設されました。45歳以上の労働者を対象とした訓練が助成対象に追加されています。
長期教育訓練休暇制度の助成対象として、新規雇用または派遣受入れを行った場合や、有給の長期教育訓練休暇取得者に代わって業務を行った職員に対して職務代行手当を支払った場合が追加されました。
(2)事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等に資する機器または設備に対する助成が新設されました。
eラーニングおよび通信制による訓練の経費助成上限額が見直され、中小企業は30万円から15万円に(中小企業以外は20万円から10万円に)変更となりました。この変更は令和8年3月2日付の要領改正によるものです。
⑧ キャリアアップ助成金
令和8年度は大きな変更はありませんが、選択制確定拠出年金に関する取扱いが令和8年10月転換以降から変更となります。
具体的には、選択制確定拠出年金の掛金相当額が3%要件の算定対象外となる変更です。
また、令和8年度から、非正規雇用労働者の**情報開示加算(新設)**が設けられました。
1事業所あたり20万円(中小企業以外15万円)で、対象情報を自ら管理するウェブサイトまたは厚生労働省のウェブサイトに公表した事業主に加算されます。
4.助成金を申請する際の前提チェック
助成金の申請にあたっては、まず以下の基本的な前提を確認することが必要です。
雇用保険適用事業所であること、労働保険料の滞納がないこと、離職原因3(解雇等)がないかどうかを確認する必要があります。労働局やハローワークに照会書を提出して確認することになります。
過去1年間の労働関係法令違反がないかを確認してください(送検されていなければ大丈夫です)。
帳簿(出勤簿・賃金台帳)と実態(運用)の一致を確認してください。悪質な未払いがなければ追加支給も可能です。
5.審査の傾向と実務上の注意点
近年の審査は、「書類が通るかどうか」よりも**「実態が証明できる仕組みがあるか」**に重点が置かれる傾向があります。
具体的には、勤怠・賃金・規程(周知・施行)を一体で整合させること、実地調査や会計検査を想定して5年間保存することを標準にすること、助成金以外の証明書類にも注意が必要です。
また、情報の優先順位として、省令・通達・支給要領 > パンフレット > Q&A > 現場運用という順序で確認することが基本です。
申請用紙は必ずその年度のものを使用し、年度途中で変更がある前提として申請前に必ず最新版を確認してください。
6.不正受給に関するリスク
令和8年度は、助成金の審査が厳格化されており、不正受給に対するペナルティも重くなっています。主な内容は以下のとおりです。
不正受給が発覚した場合は返還が求められます。
返還に加え、受給翌日から返還終了まで年3%の延滞金が課されます。
返還額の20%を違約金として請求されます。
事業主・社労士・訓練実施者に対して同時・同額の請求書が送付されます。
不正受給を行うと、5年間は雇用関係助成金を受給できなくなります。
社会保険労務士が不正に関与した場合は、事務所名等が公表されます。
不正のパターンとしては、出勤簿の後作りや転記、正規雇用を有期雇用労働者等と偽ること、実態のない制度導入(規程だけで取組実績なし)、賃金台帳と振込の不一致、対象者要件の読み違いを放置すること、水増しした改善経費・訓練経費の還流などがあります。
7.情報確認の基本ルールと実務上のポイント
助成金の申請を適切に行うためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
申請用紙は必ずその年度のものを使用する。 キャリアアップ助成金は取組時点、人材支援開発支援助成金は計画申請時点のものが適用されます。支給要件確認申立書は最新版(令和8年4月1日版あり)を使用してください。
電子申請への対応が進んでいます。 gBizIDを活用した電子申請が可能な助成金が拡大されており、申請の効率化が図られています。
社内体制の整備が重要です。 事業主は最終確認(実態一致の責任)、現場は勤怠・シフト(客観性)、経理は賃金支払(振込・総勘定元帳)、人事は規程・契約書・周知証跡という役割分担を明確にすることが求められます。申請のたびに頑張らないよう、チェックリストと証憑セット化を図ることが望まれます。
8.まとめ
令和8年度の雇用関係助成金は、賃上げを伴う雇用拡大を促進する方向で制度が見直されています。
特に中途採用拡大コース、65歳超雇用推進助成金、両立支援等助成金などは要件や助成額の変更が多く、実務上の影響が大きい内容となっています。
一方で、審査の厳格化や不正受給に対するペナルティの強化も進んでいます。
助成金は「規程(就業規則等)で全てが決まる」といっても過言ではなく、就業規則の整備と実態との一致が申請の基本となります。
申請を検討される場合は、最新の支給要領・パンフレット・Q&Aを確認するとともに、管轄の労働局またはハローワークにご相談ください。
情報元:
厚生労働省HP:令和8年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版) https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000758206.pdf

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