top of page

勤務地限定は成立する?「転勤なし」でも配転が有効とされた裁判例

執筆者の写真: 賢二 内藤
賢二 内藤
5月5日
読了時間: 5分

1.はじめに

会社が従業員に対して行う配置転換(いわゆる異動)は、日常的に行われる人事の一つです。


一方で、「勤務地が決まっているのではないか」と感じる場面もあり、

👉「転勤なしと書いてあったのに異動になるのか」

と疑問に思うケースもあります。


ここで重要なのは、

👉「勤務地がどこまで決まっているのか(=勤務地限定があるか)」

という点です。


ただし、

👉求人票に「転勤なし」と書かれているだけで、必ず勤務地が固定されるとは限りません。


勤務地がどこまで認められているかは、

👉雇用契約の内容や会社のルールなどを踏まえて判断されます。


本記事では、「転勤なし」と記載があったにもかかわらず、異動が有効と判断された裁判例について、その内容を整理します。


2.事案の概要

本件は、首都圏で事業を行う貨物軽自動車運送事業者の事業協同組合に勤務していた労働者が、異動命令の有効性を争ったものです。


この組合は、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県に配送センターを設置していました。


労働者はハローワーク経由で応募・採用され、東京配送センターでの研修を経て、本部や東京配送センターで渉外業務・配車業務に従事していましたが、その後、会社から神奈川県内の配送センターへの異動を命じられました。


これに対し労働者は、

👉「採用時の就業場所として示された千葉配送センターに勤務地は限られている」

と主張し、異動は無効であるとして争いました。


3.採用時の条件と記載内容

■求人票の記載

採用時の求人票には、次のような内容がありました。

・就業場所:千葉配送センター

・転勤の可能性なし

・特記事項参照


一見すると「転勤はない」と理解できる記載です。


しかし、特記事項には次のような内容もありました。


👉転勤の場合は本人の希望を考慮して決定する

👉転居を伴わない範囲での異動(首都圏内)


このように、条件付きではありますが、異動の可能性が示されていました。


■本人の希望

労働者は、履歴書において

・通勤時間欄に「マイカー通勤の場合約30分」

・本人希望欄に「マイカー通勤を許可いただけますと幸いです」

といった希望を記載していました。


ただし、これらはあくまで希望であり、契約内容としてどこまで反映されているかが問題となります。


■誓約書と就業規則

入社時には、

👉業務上の都合による勤務地変更に異議を申し立てない

旨の誓約書が提出されていました。


また、就業規則にも、

👉正当な理由なく異動命令を拒否できない

という内容が定められていました。


4.異動による影響

会社が命じた異動により、労働者の通勤時間は往復で約5時間となる状況でした。


この点について労働者は、

・求人票に「転勤なし」と記載があったこと

・自身の通勤希望

・通勤負担が大きすぎる

などを理由に、勤務地限定の合意があったと主張し、異動の無効を主張しました。


5.争点

本件の主な争点は次のとおりです。


・勤務地限定の合意が成立しているか

・配転命令に正当性があるか

・配転が権利濫用に当たるか


6.裁判所の判断

■勤務地限定は認められたか

裁判所は、

👉勤務地が千葉に限定されているとは認めませんでした。


その理由として、

求人票の「転勤なし」という記載だけでなく、特記事項の内容も含めて判断しています。


その結果、

👉「転勤が全くない」と理解するのは通常とはいえない

とされました。


つまり、

👉「転勤なし」と書かれていても、それだけで勤務地が完全に固定されるとは限らない

という判断です。


■異動命令の有効性

勤務地限定が認められない以上、会社には一定の範囲で異動を命じる権限があるとされます。


本件では、

・人員配置上の必要性(欠員補充)

・特定の労働者を不利益に扱う意図がないこと

などが認められました。


そのため、

👉異動命令は業務上の必要性に基づくものと判断されました。


■通勤負担の扱い

通勤時間が往復約5時間となる点について、裁判所は

👉負担が小さいとはいえない

としつつも、


👉直ちに異動が無効になるほどではない

と判断しました。


つまり、

👉通勤が大変になるという理由だけでは、必ずしも異動を無効にできるとは限らない

という位置づけです。


■最終判断

以上を踏まえ、裁判所は


配転については、

・欠員補充という業務上の必要性があった

・不当な目的によるものではない

とされ、


👉異動命令は権利濫用には当たらず、有効である

と判断されています。


7.実務上の整理

本件から整理できるポイントは次のとおりです。


■求人票の記載だけでは判断できない

👉「転勤なし」と記載があっても、

👉他の記載内容との関係で判断される


■勤務地限定は明確な合意が必要

👉希望や認識だけでは足りず、

👉明確な合意が必要


■配転命令は一定範囲で認められる

👉業務上の必要性があり、

👉著しい不利益がない場合


配転は有効とされる可能性があります。


8.まとめ

本件では、

・求人票の「転勤なし」

・労働者の希望

といった事情があったものの、


👉勤務地限定の合意は認められませんでした。


また、

👉通勤負担が大きい場合でも

👉直ちに配転が無効となるわけではない

という点も示されています。


今回の事例において、配置転換の有効性は求人票の記載だけで判断せず、以下の内容等を総合的に考慮して判断されることが改めて確認された事例といえます。


・契約内容

・就業規則

・業務上の必要性

・労働者の不利益


異動の可否については、個別の事情によって判断が分かれるため、契約内容や会社のルールを確認することが重要です。


■情報元

・2026.04.23【労働新聞 WEB】

 
 
 

最新記事

すべて表示
育児・介護休業法の是正指導が急増~就業規則の「準用」ミスと雇用環境整備に注意~

1.はじめに 育児・介護休業法の改正が令和7年4月と10月に段階的に施行されてから、1年が経ちました。 この間、労働局は企業への報告徴収(就業規則や運用状況の確認)を強めており、大阪労働局では令和7年度の是正指導等の件数が前年度の5倍を超えたと報じられています。 本記事では、労働局の指摘が多いポイントを整理し、自社の就業規則・社内体制を点検する際の着眼点を解説します。 2.大阪労働局の是正指導は5

 
 
 
「106万円の壁」撤廃で何が変わる?~社会保険の適用拡大と保険料調整制度を解説~

1.はじめに 2026年10月1日、パート・アルバイトの方が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する要件のうち、「月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されました。いわゆる「106万円の壁」の撤廃です。 あわせて、従業員50人以下の企業にも段階的に適用が広がるスケジュールが決まっており、事業主の負担を和らげる「保険料調整制度」も始まりました。 本記事では、今回の変更点と今後の予定、会社として

 
 
 
大阪府の最低賃金は1,231円に~10月発効、月給者・手当の確認ポイントを解説~

1.はじめに 令和8年度の地域別最低賃金が各都道府県で改定され、大阪府では令和8年10月1日から時間額1,231円となりました。 10月分の給与計算を迎えるこの時期は、改定後の金額を下回っている従業員がいないかを確認する大切なタイミングです。 本記事では、今回の改定額の概要と、時給者・月給者それぞれの確認方法、見落としやすい手当の扱いについて、実務の視点から整理します。 2.令和8年度の改定の概要

 
 
 

コメント


bottom of page