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令和8年度の労働行政は「賃上げ支援」と「非正規労働者の処遇改善」に重点─厚労省が運営方針を策定─

  • 執筆者の写真: 賢二 内藤
    賢二 内藤
  • 5月6日
  • 読了時間: 9分

はじめに

 厚生労働省は令和8年度(2026年度)の「地方労働行政運営方針」を策定しました。この方針は、全国の都道府県労働局が一年間を通じてどのような施策に取り組むかを示すものです。

 今年度の方針では、賃金引上げに向けた企業支援と非正規雇用労働者への処遇改善が重点対策として位置付けられています。具体的には、「賃上げ支援助成金パッケージ」の周知・活用促進や、同一労働同一賃金の遵守徹底などが柱となっています。

 本記事では、この運営方針の内容を中心に、令和8年度の主要な労働行政施策を整理してお伝えします。


1.令和8年度の基本的な問題意識

 運営方針の冒頭では、我が国が直面している労働環境の変化について整理されています。

少子化の進行により生産年齢人口の減少が続いており、今後さらに労働供給の制約が強まることが見込まれています。

 こうした状況の中で、国民一人ひとりの能力を十分に発揮できる環境を整えることが重要であるとされています。

 具体的な方向性としては、物価上昇を上回る賃上げが継続できる環境の整備、労働生産性の向上、労働移動の円滑化、そして労働者が希望に応じた多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現が挙げられています。

 こうした大きな目標のもとで、都道府県労働局は、労働基準・職業安定・雇用環境均等・人材開発の四分野にわたる施策を一体的に推進することが求められています。労働局長のリーダーシップのもと、各部署が縦割りにならず連携して対応に当たる姿勢が強調されています。


2.賃上げ支援助成金パッケージの周知と活用促進

 令和8年度の重点施策の一つが、「賃上げ支援助成金パッケージ」の周知・活用促進です。

 このパッケージは、生産性向上(設備・人への投資等)、非正規雇用労働者の処遇改善、そしてより高い処遇への労働移動の支援に関する助成金をまとめたものです。労働市場全体の賃上げを支援することを目的としています。

 企業によって賃上げの目的や方法はさまざまです。そのため、個々の企業が自らのニーズに合った助成金を選んで活用できるよう、きめ細かな情報提供を図るとされています。


◆働き方改革推進支援助成金の拡充

 このパッケージの一つである「働き方改革推進支援助成金」では、特に小規模企業への支援が強化されました。この助成金は、労働時間削減などに向けた環境整備(労働能率の向上に役立つ設備・機器の導入など)を行い、成果を上げた場合に経費の一部を助成するものです。

 令和8年度の変更点として、賃上げ結果に応じた助成上限額の加算措置について、1~9人規模の企業が賃金を5%以上引き上げた場合の加算幅が拡大されました。


◆人材確保等支援助成金の新区分創設

 「人材確保等支援助成金」の雇用管理制度・雇用環境整備助成コースでも、5%以上の賃上げを要件とする加算措置に「7%以上」などの新たな区分が設けられました。

 このコースは、賃金規程・諸手当の整備や人事評価制度の構築、作業負担を軽減する機器の導入などを通じて離職率を低下させた企業が対象です。新たな加算措置として、雇用環境を整備した上で賃金を7%以上引き上げた場合に助成額を50%加算する措置や、雇用管理に困難を抱える事業所が3%以上引き上げた場合に25%加算する措置が設けられました。


◆支援窓口との連携

 助成金の活用促進にあたっては、「働き方改革推進支援センター」との連携も重視されています。

 同センターでは個別相談やセミナーが実施されており、企業が実情に応じた支援策を適切に活用できるよう、商工会・商工会議所・認定支援機関・よろず支援拠点などの関係機関とも連携して取り組むとされています。


3.同一労働同一賃金の遵守徹底

 非正規雇用労働者への支援として、もう一つの柱が「同一労働同一賃金の遵守徹底」です。


◆監督・指導の進め方

 労働基準監督署(監督署)による定期監督等において、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者の待遇に関する確認を行い、雇用環境・均等部(室)や職業安定部による報告徴収・指導監督を効率的に実施する体制が整備されます。

 また、監督署による集団指導の場を活用し、不合理な待遇差の解消に向けた取組みを事業主に対して要請することとされています。

 基本給や賞与において正社員との待遇差がある場合、その理由の説明が十分でない企業には点検実施を求め、企業の自主的な取組みを促していきます。


◆改正ガイドラインの周知

 同一労働同一賃金制度については、施行から5年が経過したことを踏まえた見直しに関する審議会での議論の結果を受け、関連の指針(ガイドライン)や省令が改正される見込みです。

 令和8年10月から適用が見込まれるこの改正内容について、労使関係者に十分に理解されるよう、周知・啓発に取り組むとされています。


4.非正規雇用労働者の処遇改善・正社員転換支援

 非正規雇用労働者の処遇改善や正社員への転換を支援する「キャリアアップ助成金」についても、各コースの周知と活用勧奨が続けられます。

 「正社員化コース」「賃金規定等改定コース」に加え、いわゆる「年収130万円の壁」への対応として令和7年7月に新設された「短時間労働者労働時間延長支援コース」なども対象となっています。

 また、「多様な働き方の実現応援サイト」に掲載されている好事例の周知を通じて、非正規雇用労働者の処遇改善に取り組む企業の機運醸成を図るとされています。


◆無期転換ルールの周知

 有期雇用契約が更新されて通算5年を超えた場合に、労働者が申し込めば無期雇用に転換できる「無期転換ルール」についても、引き続き周知が図られます。

 令和6年4月からは労働条件の明示事項に無期転換申込機会と転換後の労働条件が追加されており、令和7年12月に新たに公表された考え方の整理も含めて、パンフレット・ポータルサイト・説明会を通じた周知が進められます。


5.リ・スキリング、ジョブ型人事の導入、労働移動の円滑化

 運営方針の第4章では、リ・スキリング(学び直し)の支援、ジョブ型人事(職務給)の導入促進、成長分野への労働移動の円滑化の3点が施策として整理されています。

 リ・スキリング支援については、「教育訓練給付金」(令和6年10月に給付率引上げ済み)や、令和7年10月創設の「教育訓練休暇給付金」の周知が続けられます。


 各都道府県の「キャリア形成・リスキリング支援センター」およびハローワーク内の相談コーナーでは、キャリアコンサルタントによる相談支援が実施されます。

 また、令和8年度からは非正規雇用労働者等が働きながら学べるオンライン職業訓練の本格実施と、リ・スキリングの全国的な周知広報キャンペーンが新たに始まります。

ジョブ型人事の導入については、「働き方改革推進支援センター」を通じた「ジョブ型人事指針」の周知と、配偶者手当の見直しに関する支援ツールの提供が行われます。


 労働移動の円滑化については、「職業情報提供サイト(job tag)」の活用促進のほか、令和7年度末に新規構築された情報プラットフォーム「みんなの労働ナビ」の周知が図られます。

 また、都市部から地方への移住を伴う再就職を希望する方に対し、ハローワークの全国ネットワークを活用した職業紹介と生活関連情報の提供が一体的に実施されます。


6.人手不足対策──医療・介護・保育分野を最重点に

 令和8年度は「医療・福祉ささえる求人充足プロジェクト」として、全ハローワークが医療・介護・保育分野の事業所への積極的な訪問(アウトリーチ)による求人充足支援を最重点事項に位置付けています。

 ナースセンター・福祉人材センター・保育士支援センターなどの関係機関とも連携して対応します。

 建設・運輸・警備などその他の分野についても、地方自治体・関係団体と連携したマッチング支援(セミナー・説明会・面接会等)の充実が図られます。


7.多様な人材の活躍促進

 高齢者・障害者・外国人・就職氷河期世代・若者など、多様な人材の活躍促進に向けた取組みも方針に盛り込まれています。


◆高齢者の活躍促進

 65歳を超えても働くことを希望する高年齢者に対し、ハローワークの「生涯現役支援窓口」での相談支援が引き続き実施されます。

 また、令和8年度から助成額が拡充された「65歳超雇用推進助成金」の活用促進も図られます。

 70歳まで就業可能な措置を講じている企業の割合を令和11年までに40%以上とする政策目標の達成に向け、事業主への働きかけが続けられます。


◆障害者の雇用促進

 令和8年7月には民間企業の法定雇用率が2.7%に引き上げられる予定です。

 雇用率未達成企業や障害者を一人も雇用していない「ゼロ企業」を中心に、採用準備から職場定着までの一貫したチーム支援が実施されます。


◆女性活躍推進

 令和7年6月の改正女性活躍推進法により、常時雇用101人以上の事業主に対して、男女間賃金差異と女性管理職比率の情報公表が令和8年4月1日から義務付けられました。

 この改正内容の周知と、要因分析・説明欄の活用促進が図られます。


8.ハラスメント対策の強化

 令和7年6月に改正された労働施策総合推進法等により、カスタマーハラスメントや求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止のための雇用管理上の措置が、令和8年10月1日から事業主に義務付けられることとなりました。

 この改正内容について、施行前から労使双方に十分な理解が得られるよう、労使団体等と連携した周知活動が進められます。施行後は、関連指針に基づく着実な履行確保が図られる予定です。


9.仕事と育児・介護の両立支援

 育児・介護休業法の改正により、令和7年4月と10月に段階的に施行された新制度の履行確保が続けられます。

 男性の育児休業取得率については、令和12年までに85%とする政府目標の達成に向け、企業への働きかけが強化されます。

 令和7年4月に創設された「出生後休業支援給付」(両親ともに一定期間の育休取得で給付)および「育児時短就業給付」(時短就業に対する給付)についても、引き続き周知と円滑な支給が進められます。


おわりに

 令和8年度の地方労働行政運営方針は、賃金引上げ支援と非正規雇用労働者の処遇改善を中心に置きながら、人手不足対策・多様な人材活躍・ハラスメント対策・両立支援など、幅広い分野にわたる施策を一体的に推進する内容となっています。


 事業主にとっては、活用できる助成金の種類や要件が令和8年度も見直されており、自社の状況に合った支援策を確認しておくことが重要です。

 労働局・ハローワーク・働き方改革推進支援センターなどの窓口では、個別の相談にも対応しています。

 今後の施策の動向を確認する際は、以下の情報源もご参照ください。


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