労働条件明示の違反が増加中~「変更の範囲」の書き漏れと10月からの追加事項を点検~
1.はじめに
労働基準監督署の監督指導で、「労働条件の明示」に関する違反が増えています。
厚生労働省のまとめでは、令和7年の定期監督等で労働条件明示の違反が見つかった事業場は1万9049件と、前年から3割ほど増えたと報じられています。背景にあるのは、令和6年4月の明示ルールの変更です。
さらに令和8年10月からは、パートタイム・有期雇用労働者への明示事項も追加されました。本記事では、指摘の多いポイントと、労働条件通知書の点検方法を解説します。
2.違反の多くは「ルール変更への未対応」
■監督署が指摘する内容
東京の中央労働基準監督署は、令和7年の監督指導で条件明示の違反が明確に増えたとし、その大半が法令改正に追い付いていないものだったと報じられています。
特に多かったのが、全ての労働者に必要な「就業場所・業務の変更の範囲」の明示漏れです。有期契約の「更新上限」の明示漏れよりも多かったとされています。
■フリーランスの相談から指摘される例も
業務委託で働く人が「実態は労働者だ」と労基署に相談し、労働者と判断された結果、労働条件を明示していなかったことも併せて指摘される例があるとのことです。
👉「業務委託だから労働条件通知書は不要」と考えていても、働き方の実態によっては明示義務の対象となる点に注意が必要です。
3.令和6年4月から追加された明示事項
■全ての労働者が対象
① 就業場所・業務の「変更の範囲」
雇い入れ直後の就業場所・業務に加えて、将来の配置転換などで変わり得る範囲も書く必要があります。労働契約の締結時と、有期契約の更新時のたびに明示します。
■有期契約労働者が対象
② 更新上限の有無と内容(通算契約期間または更新回数の上限)
③ 無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込権が発生する更新時)
④ 無期転換後の労働条件(同上)
また、最初の契約の後に更新上限を新たに設けたり短縮したりする場合は、その理由を事前に説明する必要があります。
■既に雇っている人はどうなるか
厚生労働省のQ&Aでは、令和6年3月以前から雇用している無期契約の労働者に、改めて明示し直す必要はないとされています。
一方、有期契約の更新は新たな契約の締結にあたるため、令和6年4月以降の更新時には新しいルールでの明示が必要です。
👉パートや契約社員の更新のたびに、古い様式の通知書を使い回していないかを確認しましょう。
4.「変更の範囲」の書き方
厚生労働省の記載例では、限定の程度に応じて次のような書き方が示されています。
・限定がない場合:「会社の定める営業所」「会社内での全ての業務」など、全ての就業場所・業務が含まれるように書く
・一部に限定がある場合:「大阪府内」「介護業務、介護事務」など、範囲を具体的に書く
・変更がない場合:「変更なし」と明記する
テレワークを行うことが通常想定される場合は、就業場所に自宅など、テレワークを行う場所も含めて書く必要があります。
「変更の範囲」の書き方は、配置転換を命じられる範囲をめぐるトラブルにも影響します。自社の実際の運用(転勤の有無、他部署への異動の可能性)に合わせて書くことが重要です。
5.令和8年10月からパート・有期の明示事項が追加
パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れるときは、労働基準法の明示事項に加えて、次の事項を書面の交付等で明示する必要があります。
・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・相談窓口
・(新規)正社員との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨
厚生労働省の資料では、「次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる」と書き、窓口の部署名・担当者・連絡先を記載する例が示されています。契約の更新時も明示が必要です。
6.会社として対応すべきこと
① 労働条件通知書の様式を最新版にする
厚生労働省のモデル労働条件通知書(パート・有期の方は短時間・有期雇用労働者用の最新版)と見比べ、「変更の範囲」「更新上限」「待遇差の説明を求めることができる旨」の欄があるか確認します。
② 有期契約の更新時の書面を見直す
更新のたびに同じ書面を使い回していると、新ルールの項目が抜けたままになりがちです。無期転換申込権が発生する更新時の記載も確認します。
③ 業務委託の契約を点検する
時間・場所の指示や業務の進め方の実態から労働者と判断される可能性がないか、契約内容と働き方を確認します。
④ 待遇差を説明できるように準備する
説明を求められたときに慌てないよう、正社員との待遇の違いとその理由を整理しておきます。
7.まとめ
労働条件の明示は、採用や契約更新のたびに必ず発生する手続です。一度、正しい様式を整えれば継続して運用しやすい一方、古い様式のままだと違反が積み重なってしまいます。
明示義務の違反には罰則(労働基準法では30万円以下の罰金、パートタイム・有期雇用労働法では10万円以下の過料)もあります。
監督指導で指摘される前に、自社の労働条件通知書・雇用契約書をあらためて点検しておくことが重要です。なお、記載すべき内容は雇用形態や働き方によって異なりますので、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。
本記事は2026年10月25日時点の情報に基づいています。
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■情報元
・2026.10.07【労働新聞 ニュース】条件明示違反が増加 6年のルール変更影響し 中央労基署(令和8年10月5日 第3563号)
・2026.08.27【労働新聞 ニュース】労働条件明示違反が3割増 6年改正など影響 厚労省・7年定期監督等実施状況(令和8年9月7日 第3559号)
・2026.10.19【労働新聞 ニュース】条件明示違反は12% パート有期法の指導状況 茨城労働局(令和8年10月19日 第3565号)
・厚生労働省HP:2024年4月から労働条件明示のルールが変わります
・厚生労働省HP:パンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」
・厚生労働省HP:令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A
・厚生労働省HP:パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)
・厚生労働省HP:同一労働同一賃金特集ページ

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