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労災保険法等の一部改正法律案要綱が答申~時効延長と遺族補償の見直しを徹底解説~

執筆者の写真: 賢二 内藤
賢二 内藤
3月14日
読了時間: 6分

1.はじめに:労災保険法改正への動き

 厚生労働省は2026年3月、労災保険法および関連法の改正案要綱を労働政策審議会に諮問し、同審議会より「おおむね妥当」との答申を得ました。

 これを受け、政府は今特別国会に「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案」を提出する予定です。


2.改正の背景と目的

 労災保険制度は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護を行うためのものです。

しかし、近年のフリーランス増加や副業・兼業の普及など、労働者の働き方は大きく変化しております。

 これに伴い、セーフティネットとしての労災保険制度を整備することを目的とし、2025年9月公表の審議会資料において重点的な検討が行われてきました。


 今回の改正における大きな柱の一つが、消滅時効期間の見直しです。


3.保険給付請求権の消滅時効期間の延長

①時効が「5年」に延長される給付改正案

 現行の労災保険法では、保険給付を受ける権利は2年で時効により消滅します。

 今回の改正案では、以下の給付について、「発症後の迅速な保険給付が難しいと考えられる病気について請求する場合」には、5年に延長されることを改正案としております。

  • 療養補償給付

  • 休業補償給付

  • 介護補償給付

  • 葬祭料


②延長の理由:疾病認定の長期化への対応

 業務上の疾病、特に職業性疾病などは、「これは労災かもしれない」という内容であっても、客観的な事実だけでは給付を受けられるかがすぐに判断できないものがあります。

 この場合、発症から認定までに高度な医学的判断や長期間の調査を要することがあります。

 審議会資料では、この点において「事情を考慮することが適当。」としており、対象とする疾病については、「まずは脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病等を対象とすることが適当。」としております。


 また、これに伴い労働基準法の災害補償請求権についても、同様に5年に延長する改正案を含めているようです。


4.遺族補償年金における男女差の解消

①現行制度の支給要件と課題

 もう一つの重要な改正点は、遺族補償年金の支給要件の見直しです。

 現行制度では、労働者が死亡した際、残された遺族が「夫」か「妻」かによって受給できる要件が異なります。

  • 妻の場合: 年齢制限なく受給が可能。

  • 夫の場合: 60歳以上、または一定の障害状態にあることが条件。


 この差は、かつての「夫が生計を維持し、妻が扶養される」という社会構造を前提としていましたが、共働き世帯の増加や家族形態の多様化が進む中で、制度の見直しが議論されました。


②改正の内容:性別にかかわらない受給要件

 改正案では、遺族補償年金を受給できる遺族の要件から、夫に係る「60歳以上」または「障害状態」という制限が撤廃されます。

 これにより、夫であっても年齢を問わず、妻と同様の要件で遺族補償年金を受給できるようになる予定です。


③支給額の調整と特例の廃止

 受給要件の統合に併せて、支給額の計算方法も整理されます。

  • 遺族が1人の場合の支給額を、一律で給付基礎日額の175日分に統合します。

  • 55歳以上の妻などに認められていた額の特例措置などは廃止されます。

 これにより、受給資格者の性別にかかわらず、同一の基準で遺族の生活が保障されることになります。


5.特別加入団体の適格性確保と承認制度の整備

 近年、一人親方などの「特定の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者等」に対する特別加入制度の役割が重要視されています。

 これに伴い、加入手続きや保険事務処理を担う「特別加入団体」の適格性を確保するための新たな仕組みが導入されます。


①政府による承認制度と要件の明確化

 改正案では、特別加入団体が労災保険の適用を受けるための要件を法令上に明記し、政府による「承認」を必要とすることとしています。

  • 承認の要件: 労働保険料の徴収等に関する業務や、業務災害の防止に関する活動などを適切に実施できる団体として、厚生労働省令で定める要件に適合する必要があります。

  • 具体的な内容: 団体の性格、事務処理体制、財政基盤に関する事項、および災害防止に関わる役割や実施すべき措置事項などが含まれることが適当とされています。


②業務運営の改善命令と保険関係の消滅

 適格性を継続的に維持するため、政府による監督権限が整備されます。

  • 改善命令: 承認団体の業務運営に関し改善が必要であると認めるときは、政府は当該団体に対し、改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができます。

  • 保険関係の消滅: 承認団体がこの命令に違反したときは、当該団体についての保険関係を消滅させることができるものとされます。

  • 段階的な手続: 保険関係を消滅させるに当たっては、先だって改善を要求するなど段階的な手続を設けるとともに、消滅させる時期に配慮することが適当であるとされています。


◆今後の検討事項:特別加入対象の拡大について

 労災保険法の強制適用の範囲については、労働基準法上の「労働者」概念の議論等も含め引き続き議論が必要ですが、現在対象となっていない事業等への拡大についても随時検討することが適当という内容が審議会で議論されています。


6.暫定任意適用事業の廃止と強制適用への移行

 農林水産業の一部に見られる「暫定任意適用事業」についても、大きな制度変更が予定されています。

①暫定任意適用事業とは

 暫定任意適用事業とは、労働者を雇用していても労災保険への加入が事業主の任意に任されている、個人経営の農林水産業を指します。主な範囲は以下の通りです。

  • 農業:常時5人未満の労働者を使用する事業

    (一定の危険・有害作業や、事業主が特別加入している場合を除く)。

  • 林業:労働者を常時には使用せず、かつ年間延べ労働者数が300人未満の事業。

  • 水産業:常時5人未満の労働者を使用し、総トン数5トン未満の漁船によるもの、

     または災害発生のおそれが少ない水域で主として操業するもの。

    ※なお、現状でも労働者の過半数が加入を希望する場合は強制適用となります。


②廃止の決定と施行までの期間

 今回の見直しにより、暫定任意適用事業は廃止され、これらの事業者についても労災保険が強制適用されることとなりました。

  • 廃止の時期:暫定任意適用事業の廃止は、公布日(来年4月1日)から5年以内と

          されています。

  • 円滑な移行 :強制適用に当たっては、農林水産省と連携しつつ、零細な事業主の

          事務負担軽減等の対応を検討し、円滑な施行に必要な期間を設けるこ

          とが適当とされています。


7.最後に:実務への影響と施行時期

 今回の「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案」は、国会での成立を経て、2027年(令和9年)4月1日からの施行を基本としています。

 ただし、消滅時効の延長や遺族補償年金の支給要件変更、暫定任意適用事業の廃止など、個別の規定によって具体的な時期が異なる場合があります。

 実務担当者においては、以下の点に注視が必要だと考えます。

(1)時効の延長: 休業補償等の時効が2年から5年へ延びることに伴う、過去の災害記録の管理。

(2)遺族補償の平等化: 夫の受給制限(60歳以上・障害状態)の撤廃によるジェンダーレスな保障への理解。

(3)適用範囲の変化: 暫定任意適用の廃止や特別加入団体の承認制導入など、加入関係の厳格化・適正化への対応。


 今回の改正は、就業構造の変化に応じ、労働者保護のセーフティネットをより公平かつ強固にするための重要なアップデートとなります。


情報元:

・2026.03.12 【労働新聞 ニュース】

・厚生労働省HP:労働政策審議会建議「労災保険制度の見直しについて」

・「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案要綱」諮問及び答申資料


 
 
 

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